『救児の人々──医療にどこまで求めますか』熊田梨恵著(ロハス・メディカル刊)

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『救児の人々──医療にどこまで求めますか』熊田梨恵著(ロハス・メディカル刊)
zeikomi
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 甲子園や野球の話じゃありません。

 いえいえ、最初、なんでこんなタイトルが病気本なのか、わたしがわからなかっただけで、みなさんはすぐにわかられたかもしれませんが。

 

 わたし個人は、病気がらか、死ぬことに対してあまり畏怖感や嫌悪感は感じないけど、無理な延命だけはかんべんしてもらいたいので、「もしわたしが死にそうになったとき」というメモ(笑)に、
「なにが原因であれ、回復が見込めないようだったら、経管栄養、呼吸器などすべての延命処置をしないでください」と書いている。もちろんそういう状態での胃瘻もかんべんしてほしい。
 ついでに、同じメモに、「戒名は無しに、なるだけ宗教色の少ない葬儀をお願い」とも書いているけど、ま、そっちは生き残った人が決めることだろうから、「できるだけ」ってことにしてる。と、これは関係ない話。

 と……わたしはそれでいいのだけれど、たとえば義母や夫や娘がそういう状態になってしまったときどうするかは、ほんとうに悩むと思う。リビングウィルでもあればいいのだが、三人ともまだ用意していないみたいだし、高度先進医療大国なニッポンなので、「生かそう」と思えばけっこう「延命」できるでだろうし。

 

 この本はNICUが舞台。「新生児集中治療管理室」。ICUの赤ちゃん用ですね。
 現在の日本の医療制度のなかで、医療者たちは過労死ギリギリまで働く方々も多いようで、「医療職は、きつい・汚い・危険・臭い・給料安い・休日少ない・クレーム対応・起訴される・心が折れるの9K」だっておっしゃるお医者さんもいる。5つ目はほんまかな、とも思うが、まあ、それはおいといて。

 この本は、著者熊田さんのインタビューに答えた一人のおかあさんの語りから始まる。

「軽蔑していいですいよ。子供が助からない方が、よかったのかもしれないと思うことがあるんですよ……。昔だったら医療がこんなに発達していないから、小さい赤ちゃんは助からなかったと聞きますよね。(中略)お医者さんも看護師さんも「助かってよかった」と笑顔で言ってくれました。
 あんなにも一生懸命に頑張ってくれている人たちに「助からない方がよかったのかも」とか、口が裂けても言えるわけないじゃないですか。(中略)こういう気持ちをどうすればいいのか、本当に分からなくて、助けてほしいですよ」

 妊娠25週で570グラムの赤ちゃんを出産したおかあさんの言葉。

 

 これを、どう受け止めればよいのだろう。赤ちゃんは退院後、自宅介護。24時間ぶっつづけの介護が必要で、意思疎通もならず、これからどうなるのかわからない、という。

 たしかに高度医療によって、これまでは助けられなかった命の多くが助けられるようになってきている。特に新生児医療に関してはそうらしく「世界一安全な日本」とも言われているという。
 妊産婦の死亡率も、1955年は10万件のうち178.8人のおかあさんが亡くなっていたのが、2007年には3.2となっている。桁が二つ違う。

 

 そして、本書のなかで一人の医師が言う。
「一度呼吸器を付けた患者さんから外すことが、今の日本では公にすると問題になることが多いです」

 また、別の医師は、
「治療をやめるということに抵抗感を持つ方もおられますよね。「医療者が救命をあきらめていいのか」とか……(中略)でも、どんな状態でも救命をあきらめずに医療をしてほしいとみんなが思うんだったら、近所に住んでいる介護が必要な人たちに何かできることはないかと考えたことがありますか、と問いかけたことがあります。日本は障害を持って生きていく人にそれほど優しい国ではないと思いますよ。……」

 また、別の医師は、
「以前診た患者さんのご家族はキリスト教徒の方で、お子さんに重たい脳奇形があって、生まれてからすぐ呼吸できないかもしれなかった。すると「あまり無理な治療はしないで自然な姿で逝ってもらいたいと思います」って。(中略)このお父さんは本当に生まれてきてくれよかったという感じで、(中略)でも呼吸がほとんどできないので、どうしますかと聞いた。すると「一緒に過ごす時間が大事」と言われて、ご家族3人でお母さんの部屋で休まれた。患者さんは、生まれて数時間しないうちに亡くなられましたけど、僕にはすごく自然な感じでした。生まれてきてくれたことはとても嬉しいことだけど、無理なことはしないで神様のもとに還すんだと(中略)寿命をまっとうしたと思うし、これで家族なんだと。……」

 

 さて、あまりに重たい内容なので、ほとんどコメントができない。

 自分だったらどうするか、自分の近しい家族だったらどうするか、までを考えるので精一杯だ。

 だけど、赤ちゃんについては現在の妊産婦のみならず、これから生きていく若い世代、子を生す人にとっては誰にでも可能性のある事態=時代である。

 と同時に、どこかで、終末期医療や救急救命ギリギリのラインついてのコンセンサスを、まだ曖昧でもいいから、線をひかなければ、
 現場の医者は過剰労働で青息吐息、病院のベッドは満床で、次の救命医療を必要とする患者を受け入れられない状態(……「たらい回し」とも言う人もいるけど、わたしはそういう言葉は使わない)は、終わりをつげることができないと思う。医療崩壊。

 著者は、医療と介護を専門とする記者さん。2008年10月に起きた墨東病院事件がきっかけで、この本を書くに到ったという。興味のある方は、「墨東病院事件」で検索を。

 あんまし重たい本だったので、ネットで読んで、紙本になって2度読んだ。生死観について考えたい方、医療崩壊について考えたいお方々には是非おすすめの1冊であります。

 ここまで調べ、人々を訪ね、真摯な姿勢で書きつらぬいた熊田梨恵さん、すばらしい。

 

  ……そろそろわたしもきちんとしたリビングウィルの用意をせねばなりますまい。(2011年8月15日 編集・中津千穂子記)