オブジェで脱皮する主

山幸窯つれづれ
山本幸一
(やまもと・こういち)
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山本幸一
zeikomi
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1947年福岡県大牟田市生まれ。小石原、ファエンツア(イタリア)で学ぶ。
1978 年熊本市に開窯。以後、東京、京都、福岡、沖縄、ソウルなどで個展、グループ展。

コラム一覧

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オブジェで脱皮する主
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 ウナギは何ともないのにヘビはどうして苦手なのか未だによく分からない。

 工房は山の中腹、ヘビは隣組のようなもので珍しいものではないが、今年は梅雨以来よく出会す。多い時は一日に三度も、その都度「オッ」と腰が引けてしまうのが情けない。ヘビに罪がないのは分かっているが気がつくのはいつも1~2メートルの至近距離、出来るものなら旗でも立てて動いて欲しいものだ。

 築50年ほどの私の工房は斜面を削り片側だけ約3メートルの石垣を積んで土台としている。以前、この石垣の穴を縫うように派手な脱皮をするヘビがいた。恐らくはここの主であろう、野ネズミを追って自由に工房を出入りする青大将の皮は2メートル近くあった。石垣の見事な脱皮を見る度、今年も元気そうだなと思ったりしたものだが、一度在庫置き場の奥の部屋で皮を脱いでいた。私のオブジェ(突起が多い)が余程しっくり来たのか、上手く脱いでテープのように絡めた皮はまだ柔らかく湿り気が残っていた。

 ヘビが出始める春先からはフク(窯場の雄犬、元気な14才)との散歩は足元に注意を払うようになる。滅多に見ないがマムシがいるからで、フクも一度洗礼を受けている。まだ彼の若い頃は山歩きの途中、時々リードから放していた。フクは一目散に鳥やウサギの匂いを追って山の中へ飛び込んで走り回り、遠目に草木の擦れる様子が見え、時々は獲物を追う声もした。そのときは珍しく、遠くで一度「キャン」という声が聞こえて、いつもは当分戻って来ないフクが早々に山から出て来た。上方の唇に二カ所小さな血がある。直感的にマムシと思い急ぎ工房に戻ったが、すでに顔は膨れ始め、あっという間にムーンフェイスの別顔、首輪を緩めてすぐに医師に連絡。人と違い、犬はマムシの毒には強いそうで傷口だけの治療となった。

 また一度はフクに助けられた事がある。散歩を終え、足を一歩夏草に覆われた石段に下ろそうとした瞬間フクが飛び込み、何やら喰わえて振り回した。長いのでヘビだと分かったが、興奮するフクを引き離してみたら今まで見た事もない太った立派なマムシだった。フクの殊勲は14年間でこれのみだが、よくやった。

 という訳でヘビとの出会いはいつも慌ただしいが、一度だけゆっくりと観察したことがある。真夏の日中、いつものようにフクと山道を散歩中、車一台やっと通れる道の端の草むらに長いものがいた。動かずじっとしている。口には拳より大きな半死状態のガマをくわえていて動くに動けないのだ。フクはまだ気が付かない。腰が引けながらも近付けば何とも言えぬほどの美しいヘビだった。頭から首のあたり(どこまでが首か知らぬが)にかけ、草むらのなかでもひときわ艶艶とした黄緑色で脱皮の直後だろうか色鮮やかで柔らかそうだった。これほど美しく、迫力に満ちたヘビをこれまでに私は見たことがない。人は青大将だろうと言うが、私の知っている青大将とは違っていた。やっとフクが気付き吠えて近付こうとする。するとこれまで全く動かなかった大きなヘビが「エイッ」とばかりに下半身を道の中央の方へ半転させたと思ったら、その反動でガマをくわえた頭部を一回転させて道を横切る動きをはじめた。フクは狂ったように吠えるし、どうしたものかと思ったが棒切れを投げてみた。ヘビは驚いたのか、やっとガマを離し一目散に草むらから梨畑へと逃げて行った。ガマはぐったりしていたが死んではいないようで道の端に動かして、散歩を続け再度その場所に戻ったらガマの姿はなかった。くらくらするような炎天下、夢のような出来事ではあった。

 近くの農家のヨシクニさんに最近マムシを見かけなくなったと言ったら、マムシは猪の好物で猪が増えた分マムシが減っていると言っていた。その説が正しいかどうか不明だが、猪は確実に増え続けている。そうかー、猪を元気づけているのはマムシだったか、と妙に納得した。