おおらかに性の喜び歌う

読売新聞文化部 小林清人
1996/12/06「読売新聞」

 内田麟太郎さんの新詩集『あかるい黄粉餅』は話題を呼びそうだ。過激なまでに率直な性の表現が、本当にあかるい。これほどあけすけに、おおらかに性の喜びを歌った詩はかつてなかったのではないか。
 性は「きもちいい」ことであり、そのリズムは「うっくん うっくん」なのである(「黄粉餅」)。だから、「おわってもなかよしで。おわってもずーっといっしょにねてて。おわってもずっとはなしてて。おわってもまたなかよしはじめ」るのだし、「美代ちゃんのぬくもりと。ぼくのぬくもりと。行ったり来たりして。行きっこするごとになかよしになって。なかよしになりすぎて。美代ちゃんが死んだら、ぼくは泣くみたいになって」くるのだ(「美代ちゃん」)。
 一九四一年、福岡県大牟田市生まれ。東京在住。日本絵本大賞を受賞した絵本作家でもある。詩の内容から推測すれば、不幸な少年の日があり、若いころには左翼運動の体験もあったらしい。
 ロシア文学者内村剛介さんがシベリア抑留体験をつづった著書の中で「地球が、そして宇宙が人間のものであるとするなら、その宇宙を支えているものは性だ」と書いていた。「すべてあり得る。すべて起こりうる。そして拠るべきものは何もない」と、究極のニヒリズムを感じさせるような言葉を記した同じ本の中でのことだったので、とりわけ印象深く心に残っている。
 現代の貧血した世界を救うのも、性なのかもしれない。この詩に歌われたような性のぬくもりがある限り人間は生き延びられる。「死ぬなんて、もったいない」。そんな気持ちにさせてくれる詩集である。