面白くてためになる闘病記

1997/05/20「西日本新聞」

 福岡市の石風社から刊行の「極楽ガン病棟」は、面白くてためになる闘病記だ。けれども、笑いは軽薄でなく、〈いやし〉の安売りはないから、誤解なきよう。
 ガン家系の私が、もし入院することになったら、迷わずこの本を持っていく。自分のためだけでなく、医療関係者の眼につく枕元に置くだろう。
 第一に入院生活の指南書として明るく具体的である。闘病日誌が、検査や薬、手術の前後の様子から医者や看護婦、同室者とのやりとりにまで及び、笑いと共感をもって読むうちに、病院暮らしのノウハウと勇気を得ることがことができる。気掛かりな治療日数と費用、その還付金まで教示の本はめったにない。
 第二に読み物として優れている。多くの闘病、看病記は、頭を下げるのみで書評ご法度というのが礼儀であろう。が、本書の自己を含めた人間描写の鋭さとユーモアのセンス、その知力、筆力にはただ、脱帽。
 著者の坂口良氏は「免疫力アーップ」が口癖の「不屈のガン患者」。若き漫画家で、カットの自画像はトホホホ感のボケ顔だが、顔写真は青年僧のように端正。この誠実なサービス精神もお見事。