地元への愛着あふれる視点で

1997/02/23「熊本日日新聞」

 先入観というのは、実に恐ろしい。どの本を選ぶか。わたしの場合その基準はまず題名、次に著者という順で決めている。だから本来ならばこの本は黙殺される運命にあったといえるだろう。なにしろ題名が、電撃黒潮隊である。テレビでオンエアされていることは知っていたが、てっきり軽薄なタレントが騒ぐだけの番組だと思い込んでいた。これが大層な誤解だということは一読すればすぐ分かったから、熱心に薦めてくれた友人には感謝しなければならない。
 蛇足ながら説明すると、この本は九州・沖縄・山口のJNN系列のテレビ局が制作したテレビルポルタージュを本にしたものである。だったら番組さえ見ていればそれでいいじゃないか、と言われるかもしれないが、それが違う。なにより映像と活字では表現方法が異なるし、放送では伝わらない細かい部分だってあるはずだ。ここはやっぱり映像屋さんにも頑張って、文字に起してもらわなければなるまい。
 さて基になる番組だが、勝負の決め手は各ディレクターの視点にあるといってもよいだろう。中央から見下ろした地方、ではない。公平な目線、旺盛な好奇心と真摯な追求、なによりも地元への愛着がものを言う。熊本ではかつて戦災孤児収容施設だった藤崎台童園と、オウムに揺れる波野村が取り上げられているからその興味の広さがわかろうかというものだ。
 もちろん出版社も地元(福岡)デアル。地方の雄として、メディアにはもっと個性と内容に重きを置いてほしいし、冒険心だって忘れてほしくない。もちろんわれわれ一人ひとりにしても本当に価値のあるものを見極め、育てていく器量が必要だ。
 頑張っている人を見ると思わずエールを送りたくなる。知らなかった身近な話題をもっと掘り下げたくなる。とにかく先入観なしに読んでほしい一冊だ。