夢を叶えた児童たちの実話

北海道教育大学教授 野口芳宏
2001/02/02「日本教育新聞」

 子どもをめぐる暗いニュースが多い昨今だが、そんな気分を吹っ飛ばしてくれるような明るい話題の本が出た。「海の子の夢をのせて」という書名の通り、子どもの夢が現実のものになっていうというほのぼのとした物語である。
 物語といってもフィクションではない。現実も現実、地名も登場人物もすべてが実名で登場するというすてきな海の子どものお話だ。
 舞台は島根県平田市の塩津小学校で全校児童は十九人。物語の主人公は、たった一人の男子六年生の優と二人の五年生綾子としおり、それに担任の本田亜希先生である。二階の教室に三つの机を並べた複式学級からこの話は始まる。この教室から、豪華で大きな白い船が毎日見えるようになる。「あの船、どこ行くだぁか……」と、授業中に優が呟いたことから、学校中がこの船に心を奪われる。やがて、それは大型のフェリーボート『れいんぼう・らぶ』だと分かり、いよいよ関心が高まってきた。そして、本田先生はこの船長さんにみんなで手紙を出そうよと促す。返事がくる。イルカのキーホルダーまで添えられて──。
 夢はどんどんふくらんで一度でいいから乗ってみたいと子どもたちは胸を熱くする。交流が深まって「海の子レインボー新聞」が子どもの手によって生まれ、地方新聞に「沖ゆく船と交流」と大きく紹介される。
 そして、ついに、子どもたちはこの船に招かれて夢がかなえられる! 文章も挿画も、子どもも先生も、地域もみんなみんな光っている。