さきの大戦中に、米国は、日本人の血が流れているものを強制収容所に入れた。そして一昨年、それについて大統領が謝罪し、補償を始めた。そのことは、広く知られている。
 あまり知られていないことだが、収容所に入った白人の米国人女性が、その生活を何百枚もの絵に描き詳細な文につづっていた。日系二世、アーサー・シゲハル・石郷さんの妻エステルさんである。その絵と文をまとめた本が訳された。古川暢朗訳『ローン・ハート・マウンテン』だ。
 エステルさんは、夫とともに収容所に赴いた。最初はカリフォルニア州ポモナ、ついでワイオミング州ハート・マウンテン。三年四ヶ月に及ぶ、苦しい日夜である。一家族が一室の原則。水道も便所も食堂も離れた棟にある。老人や幼児には大変な生活だ。
 女性用便所の前にはドアがない。男性用には横の仕切りもない。男性の浴室はシャワーだけだ。人々は板を拾い集め、シャワーの下に湯船を組み立てる。絵が伝える情景が生々しい。音楽や演劇の好きな人々がショーを開く。特技を生かした勉強のクラスもできる。
 医療経験者が、にわか仕立ての病院もつくった。肩を寄せ、助け合う生活を線画が的確にとらえている。この政策は間違いだとエステルさんは確信していた。当時、一世には市民権を得るすべはなかった。「十年もすればみんな死んでしまう」と当局者が軽く言う。
 戦争が終わる。収容所を去る日、凍った土から亀を掘り出して荷物に入れる子がいた。石郷夫妻はカリフォルニア州にもどる。夫は五七年に、妻は九〇年に亡くなった。「敵意と危険の中に置かれた時、愛する者と一緒にいたいとだれでも思う」とエステルさんは言っていた。
「山々と海原が幾重にも横たわってお前たちを隔てようとも、この空のもと、大地の上では、人間は皆同じなのだ」と本は結ばれている。