優れた工芸品は少女の創意から

2008/02/13「聖教新聞

 藍色と白を基調にした木綿の布に、素朴で可憐な絵柄が織り込まれた久留米絣(がすり)。高度な技術とセンスが必要とされ、技術者に重要無形文化財保持者も含まれるこの工芸品は、約二百年前、一人の少女・井上でんの閃(ひらめ)きから生まれた。
 本書は、彼女が久留米絣を考案するまでの前半生を描いた伝記小説だ。「好きこそものの上手」の言葉通り、でんは機織りを見るのが大好きな少女だった。寺子屋での勉強より、糸が布になる不思議さに魅せられ、祖母の機織りを手伝ううち、見よう見まねで整経(せいけい、機に糸をかけること)を覚え、機織りを修得。
 当時の織物は無地ばかり。花や鳥が大好きな少女の目には味気なく見えた。京染めのような柄は作れないのかと思った矢先、着古した仕事着のかすれた色を見て、でんはハッとする。機織りの時に白い糸を先に混ぜると、雪のような模様ができることに気づいた。それは「あられ織」として評判を呼び、でんは藩御用達の大店(おおだな)で織り子達に教えることになり、武家の家でも技術を伝授した。
 だが、好奇心旺盛な彼女はそれだけでは満足しない。桜や魚、鳥、更には久留米の町の情景を新柄として織りたい──そんな夢を語る少女に興味をもったのが、近所に住む15歳の天才発明少年・からくり儀右衛門(ぎえもん)。彼もまた好奇心を膨らませ、機の構造を変えたらどうかと提案。実験を重ね、ついに絵絣を完成させる。
「こん糸は撚(よ)りの強か。そりけんで、こげん風合いの出っとでっしょう」など、全編に躍動する久留米弁の会話が、登場人物の輪郭を生き生きと描き出している。