書評

穴が開いちゃったりして

穴が開いちゃったりして 隅田川乱一 美沢真之助 JAM ジャム HEAVEN 町田康 石風社 カルト ドラック プロレス 神秘
245頁 A5判上製
4-88344-091-5
定価:本体価格2000円+税
2003/01/31発行


町田康氏「自分の師です」。


booktitle
穴が開いちゃったりして
zeikomi
¥0円

深く、自由に生きるために、世界の表皮を裏返し、全身全霊で世紀末を駆け抜けたカルトの怪人・隅田川乱一。「JAM」をはじめとするさまざまな雑誌に遺した、プロレス・ドラッグ・パンク・イスラム・神秘学にまつわるディープな知力が甦る。

書評

ダイナミズムとリズム 文章のなかに音楽がある

近田春夫
ミュージシャン

 隅田川乱一は、一九五一年生まれで、タコという日本ロック史上でも意味のあるバンドのメンバーであり、また、雑誌編集や文章にも独特の境地を見出した、なかなか他にいないタイプの男である。
 世代はまったく一緒で、していることに共通点がない訳でもない。しかし会ったことは一度もなかった。文章も、多分読んでいなかったと思う。
 何でそう思うかというと、この人の文章は魅力がある。だから読んだら忘れられない。読んでいたら覚えていると思うのだ。
 あるいは面白いと感じるだけの力がなかったか。いずれにせよ、この人の文章は、きっと雑誌のなかで読むより、こうして一冊の本になったものを読むのがふさわしい。ダイナミズム、そしてリズムを、より強く実感することが出来るからだ。
 格闘技、ドラッグ、宗教、そして音楽、更にその他もろもろ。守備範囲はひろい。しかし、観点はひとつだけである。読み進むほどにそのことに気付かされる。この観点がディープなのだ。そして、先にも書いた通り、ダイナミズムとリズムを持っている。本の推薦を書く町田康が《明るくてポップで、でも主張が明快で》というように、その文章は、硬質なものだけが持つしなやかさで、読み手の神経を覚醒させる。難解な内容があっても、この本は人をリラックスさせるのだ。
 つまり、文体ということか。文体に普通と違うバランスを感じる。文章のなかに音楽がある、と私は思った。だから読んでいると、自然と身をゆだねたくなる。
 この品格が実に得難いと思うのである。たとえばタイトルになった《穴が開いちゃったりして》の、バリ島の暑い夏の夜の描写。ここにただよう空気の濃密さである。いちいち質感がどこか上等なのだ。それで安心して身をゆだねられる。
 そういう意味でいうと、大きくスタイルはふたつに分けられる。筋道は通っているが話としてはねじれているものと、話も筋道の通ったものになっているもののふたつだ。この《穴が…》は前者である。町田康が好きな作品として挙げた《報道関係者に告ぐ/おまえらの報道の基準は何処にあるのだ》は後者だろう。そのどちらも奥の方でつながっている気がして、大きなうねりのなかにリアルというものが力強く何かを貫いているイメージが、いつしか湧いてきた。
 この本は、分野としては批評、評論に属すると思うが、とにかくこれだけはいえる。隅田川乱一は物書きである以前に音楽家だった。そして文章から察するに音も良い手触りだったのだろうなァと思ってしまう。
 読んでいたら、一ヶ所私の名前があった。春男になっていたのでちょっとガクっと来たが、ほぼ原文のまま載せているので、こういうこともある、と凡例としてあとに書いてあった。夫人によるあとがきも凛として良い。

70年代アングラカルチャーの世界

永江 朗
ライター

 かつて雑誌とは、私に「悪い」世界を教えてくれるものだった。黒々として危険な匂いがして、とても魅力的だった。『ヘヴン』(『ジャム』から改称)や『ウィークエンドスーパー』『ロック・マガジン』などがそうで、小ぎれいな大型書店では手に入らない。
 そこで健筆をふるっていたのが隅田川乱一(本名・美沢真之助、九八年、四十六歳で病没)だ。彼が四半世紀の間、さまざまな雑誌に書いたコラムと未発表原稿を集めたのが、この奇妙な表題の本である。
 本を開くと、たちまち七〇年代アングラカルチャーの世界に連れていかれる。扱われているのは大麻やドラッグの話であり、プロレスであり、パンクロック、現代文学、そしてオカルトや精神世界だ。彼がサブカルチャーを追究したのは、自由に生きるためだった。ストレートな熱気が伝わってくる。ああ、いまのポップ文化のほとんどは、すでに隅田川らによって先取りされていたのだなと思い、感動する。

目次紹介- 抜粋 -

自分は美沢さんの文章が好きだった──町田康

オカルティズムとアフリカン格闘技と昨年度のマット界  思想的大問題!プロレスはヤラセか、真剣勝負か?  報道関係者に告ぐ。おまえらの報道の基準は何処にあるのだ  バローズ・ア・ゴーゴー  ほか

ボクはXボーイ  東西結婚の光と闇  ポール・ボールズ  頭、クルクル  ムキエビのドロップキック揚げ  「柳田国男─日本の祭」ノート  ムスリム・フードセンター  世界ニュース  ほか

スタンド・アップ・コミックではドラッグ・ユーモアの花盛りだ。  西洋では、直観はいつだって聖なる病気だった。  直観なくして何が人生。さあ、運命の悲喜劇にサーフィンしよう。  ニューファミリーのための隠微なスポーツ  みんなは俺を便所の天皇と呼ぶぜ  ほか
4 書評集ほか

隅田川乱一

すみだがわ・らんいち

booktitle
隅田川乱一
zeikomi
¥0円
すみだがわ・らんいち

本名・美沢真之助。1951年香川県高松市生まれ。日大芸術学部文芸学科中退。
雑誌「JAM」「HEAVEN」編集者を経て、オルタナティヴ・ロックバンド「タコ」に参加。「宝島」「本の雑誌」「クイック・ジャパン」等に寄稿。また都内ラジオ局のニュース記事を書くなどフリー・ライター、翻訳家として活躍。クリス・マイケル作ドキュメンタリー「サン・ソレイユ」にゲーマー役で出演。訳書に『スーフィーの物語』がある。1998年逝去。