「この人はいったい何者?」というのが彼女と最初に会ったときの第一印象だった。一九九四年二月、香港芸術センターで開催された「中、港、台當代撮影展」のシンポジウム会場でのことである。
中国、香港、台湾の写真評論家、雑誌編集者たちがはじめて顔をあわせ、熱っぽい討論を繰り広げていた会場を、彼女──ふるまいよしこさんは颯爽と動き回っていた。広東語、北京語を鮮やかに使いこなし、滑らかにその場の空気に溶けこんでいる。なにしろ、こちらは言葉がまったくわからないので、初対面の彼女の通訳で多くの写真関係者と知り合うことができた。
その後、九六年に横浜、京都、福岡で開催した「香港変奏──香港写真の現在」展でも、現地コーディネーターとしてお世話になり、なんとか企画を成功させることができた。彼女の粘り強い交渉力と、筋を通すポジティブな実行力がなかったら、尖閣諸島(釣魚台)の問題で微妙な状況にあった展示自体が空中分解していたかもしれない。
その彼女が『西日本新聞』に連載していたコラム(「香港交差点」=九四年十一月──九八年三月の文章をまとめた本書を読むと、いつも元気に飛び回っているように見える彼女も、けっこういろいろな矛盾や問題に直面し、それらをひとつひとつ、せいいっぱい体を張って切り抜けてきたことが分かる。「とにかく好むと好まざるとにかかわらずびゅんびゅんと前へ向かって走り続ける『弾丸列車』に乗って生活を続けているような感じなのだ」と彼女は書いているが、たしかに香港では時間が日本の二、三倍の速度で進むように感じられる。特に九七年の「中国返還」前後の時期の加速は凄いもので、その右往左往ぶりは本書からもいきいきと伝わってきた。
僕にとって嬉しいのは、高 志 強、謝 至 徳、茫〓〓という三人の香港人写真家の作品が、文章の間にたっぷり使われていること。彼らの写真から、現在形の香港の姿が立ち上がってくる。
香港玉手箱
定価:本体1500円+税 1999/03/20発行