折々のうた

詩人・評論家 大岡 信
1998/02/24「朝日新聞「折々のうた」

  河豚の座の韓の悪口(あっこう)吾(あ)を知らず  姜琪東
『身世打鈴』(平九)所収。題名は身の上話の意味の韓国語。昭和十二年高知県生の韓国人。加藤楸邨に傾倒し「寒雷」同人となる。楸邨に最も信頼された門弟の一人。
 句はむろん在日韓国人として受けてきた屈辱の一こま。河豚に舌つづみをうちながら、韓国人がいるとも知らず韓国の悪口を言い合うありふれた日本人像。楸邨没後俳句への情熱も急速に冷え、思いたって句集二冊をまとめた中の一冊。