書評

旅あるいは回帰

旅あるいは回帰 イベリア半島の古都と村 吉田優子 石風社 スペイン ポルトガル 巡礼 イベリア 古都 修道院 吉田 優子 熊本 エッセイ 原野の子 十文字 旅 グレゴリア聖歌 バヤドリード ヒメネス
231頁 四六判上製
978-4-88344-190-7
定価:本体価格1500円+税
2010/10/01発行


イベリア半島の古都と村

熊日文学賞受賞!


booktitle
旅あるいは回帰
zeikomi
¥0円

スペイン、ポルトガルの村や街や修道院を孤独な旅人がおとなう、魂の巡礼。……紡がれた言葉をひとつひとつ辿ると、こころのざわめきが静まる……

書評

時の重なりに漂うスペイン

古木信子
作家

 全体を通して「静けさ」が言葉を紡いでいる印象を受けた。教職を勤め終えた著者は、母親を見送った後、毎年数カ月スペイン・カスティーリャ地方のバヤドリードに住み、言語や文学を学ぶため、そこでプライベートスクールに通っている。
 この本は、その町を基点にして中世の王国であったカスティーリャ地方の修道院や遺跡、古都を訪ね歩いた記録だが、日時などは細かく記されていない。路線バスを乗り継ぎながら、何度も同じ場所に旅しているので、文が前後している場合もある。
 このエリアの殆どは、日本人など見たこともない人々が住む田舎のようだ。羊飼いの描写も多い。そしてその旅の繰り返しの中で、著者は次第にその風土や人々の暮らしに寄り添っていく。
 路線バスは、野にポツンとある乗客の家の前で停車する。降りる高校生に祖母は元気かと聞く運転手。著者に道を教えた後、心配して分かれ道まで付いてくる老人。クリスマス近いバル(食堂)で、突然歌い出す妻を失くした酔っ払いの夫と、それを囃す男たち。克明な描写はそのまま映像となって、読者の目にスペインが焼きつく。
 本の中程では、著者の憧れの詩人ヒメネスの生まれたモゲルが紹介され、彼の散文詩(吉田訳)も掲載されている。村の佇まいや乾いた気候が100年前とさほど変わらないことや、彼女の旅の日時が省かれているせいで、詩人の幼年期と今の村の有り様が渾然一体となって、時の重なりに漂っているような感じになる。この本の魅力の一つであろう。
 漂うといえば、ポルトガルの国境近くを旅していた著者は、日没時、濃い紅の雲とそれを映す湖面の照り返しで、バスの中にほの赤い光の粒子が浮遊する一瞬に遭遇するが、孤独な旅であるからこその「祝福」だったのかもしれない。
 ある村で、ロバに手をかまれてそのまま口を開けてくれるまで、一緒に歩くというユーモラスなシーンもある。著者はロバが大好きだ。

目次紹介- 抜粋 -

〈スペイン語の道〉を辿る旅
修道院のある村、サント・ドミンゴ・デ・シロ
詩人の生まれた村、モゲル
カセレス
ポルトガルの村
ある日、ある時の情景

吉田優子

よしだ・ゆうこ

booktitle
吉田優子
zeikomi
¥0円
よしだ・ゆうこ

1942年、熊本県菊池市に生まれる。
熊本大学教育学部卒業後、阿蘇郡の中学、小学校に勤務。1997年に退職、現在に至る。
2000年からスペインのバヤドリードに、年に数ヶ月の滞在を続ける。
著書に『原野の子ら』(映画化)、『十文字峠』がある。