いま、世界の最貧国アフガニスタンの地に、欧米諸国の最新鋭軍団が襲いかかっている。九月の、悪夢ような同時テロ事件への報復戦。この小国は、昨年から、異常な大旱魃、国連制裁で生存の危機にさらされている。そして「自由と民主主義」を守るという戦火の先は見えていない。
 この本の著者、中村医師は、パキスタン北西辺境州に設立したPMS(ペシャワール会医療サービス)を本拠に、両国の貧民、難民の医療活動を各地で行って十七年。厳しい自然と戦争による荒廃地で、国際社会から忘れられた民の生死をそこで見続けてきた。日本の市民の募金に支えられて。
 いまアフガンの苦境を語れる人は彼をおいていないだろう。実態報告ともいうべき本書は、大旱魃で水が枯れ、疫病がはやり、離村が進む昨夏から、「緑化させれば難民化しない」との信念で猛然と取り組んだ井戸掘りの苦闘物語だ。
 素人集団をまとめる二十代の蓮岡青年、西アフリカから飛んできた井戸掘りのプロの中屋氏、さらに数人の日本の若者たちが、現地の職人、村人らと知恵と技を尽くして掘削作業に当たり、なんと六百近い井戸を新設または再生させた。
 ひたすら、命の水を彼らに、の思い。国連や諸外国の官僚的干渉や本腰を入れていない支援との確執をはねのけて、PMSは住民の一部となり、絶対の信頼をかち得ている。
 これこそ平和主義に貫かれた無欲の扶助の精神ではないか。バーミヤン仏跡破壊で現政権に憎しみをかき立てている人々に、医師はお互いの心の中に築かれるべき文化遺産は何か、と問う。国際政治を干からびた大地から冷静に見る人の目がそこにある。
 ともあれ水源確保は二十万人の難民化を防止した。しかし、拡大する空爆は多くの井戸を破壊したかもしれない。厳冬を控え、国際社会は彼らの難民化を期待しているよう、との医師の言葉は痛烈にひびく。

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