詩集 ノヴァ・スコティア
- A5判変型上製
- 978-4-88344-191-4
- 定価:本体価格2000円+税
- 2010/10/11発行
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阿部謹也氏──「樋口さんの普段の姿に接していると、詩人であることを感じさせないがそれは私たちが詩人であることになんらかの印を見ようとするからである。……日常生活の中で樋口さんは詩人なのであり、それだから詩人くさくないのだ」
【書評】
自分と半歩、世間と三歩離れ
お祭り大好き人間のくせに私は群集や党派が嫌いでした。昔、学生活動家たちから「お前は右か左か」と詰めよられた時も、「俺は上だよ」と答えました。「右翼の右へならえ 左翼の左うちわ」と詩にも書いて、度し難い奴だと言われたりもしました。
こんな枕を振ったのは、別段今の政局を思ってのことではありません。樋口伸子さん(福岡市)の詩集『ノヴァ・スコティア』の帯に、歴史家阿部謹也さんが書いた次のような件(くだり)があったからです。
「樋口さんの普段の姿に接していると、詩人であることを感じさせない(略)日常生活の中で樋口さんは詩人なのであり、それだから詩人くさくないのである」
樋口さんには、いかにもゲージュツカといった風采や面体(めんてい)が感じられないのでしょう。詩を書くより、詩を生きることに多忙なのかもしれません。だからでしょうか、作品からも、ことさらの修辞やツヤ付けが感じられません。自然体です。しかし、奇も衒(てら)いもないけど、どこか異なのです。野球の投手に喩えれば、剛速球投手ではないが、緩急と内外角のボール一個の出し入れで勝負する、そんな感じです。
「わたしは夢の中までも迷っている/といっても/どこからが夢なのか分からない(略)ねじれた心をもてあまして/四月の魚がバカなら/三月の魚には毒がある(なんて)/無意味な台詞をつぶやいて/自分の声で目が覚める/その時わたしは笑っていたのだ/いや 怒っていたのだよ」(作品「夢から夢へ」)
「夏 バカが過ぎて辛い日が続いた/眠る前に小出しに泣いた/夜中に目覚めて心がよじれた/鍵をかけたまま秋になった」(作品「秋ふかく」)
おっちょこちょいですっこけたような自分が、スキップするように歌われます。しかし作者は、手放しで自分をいとおしむのでなく、周到に自分とは半歩、世間とは三歩離れているのです。そのぶん言葉が、世間の湿気やあけすけな自虐趣味から免れています。サラリチクリの一冊です。
【目次紹介- 抜粋 -】夜の庭 春のゆうれい 天使のお通り 夏休み 帽子の理由
バベルの部屋 旅とはいっても 雲の本棚 屠書館パート日記
転居通知 画皮に逢ったら 忘れ星 杞憂曲 わたしの叔父さん くらげの自己責任
ほか
ひぐち・のぶこ
ひぐち・のぶこ
1942年熊本県人吉市に生まれる。
西南学院大学(英文科)中退後、早稲田大学(第二仏文科)卒業。
主な同人詩誌、「蟻塔」を経て「六分儀」「耳空」に参加。
既刊詩集、『1284年の風──ハーメルンの笛ふき男』(小冊子)『夢の肖像』『図書館日誌』『あかるい天気予報』
福岡県福岡市在住。