紹介
フィリピンの戦場で死にそびれた男の執念と、その戦場で幼くして父を失った青年の思念が、戦後補償問題の潜むマニラ・モンタルバンを舞台に交錯する……。
日本図書館協会選定図書
目次
第1章 ル・チリソビレ
第2章 南方春菊
第3章 陽炎の道
第4章 雨期の彼方へ
生きている者が死者に向かってできるのは、悼むこと、一途に悼み続けること以外にはない。その一事によってのみ、死者は生者の乏しい記憶の中に二次的に生きる。そのありようは、戦死者において特に顕著といえよう。戦の勝敗、生存中の階級や役割、功績や失態、死亡時の場所や状況など、生前の諸事の相違は基本的にはいっさい関係なく、勇者であろうとなかろうと、戦死者は戦死者であるが故に悼まれ、祀られる。
一方、生き残った元戦士たちの場合はそうはいかない。(中略)
敗戦と同時に数多く生まれた生還者、復員兵の胸底に潜んでいったであろうアンチ・ヒーローのコンプレックスの中にこそ、あの戦争が生み出したもう一幕の暗黒劇があり、そのどこか歪んだ傾斜の上をにぎにぎしい戦後が滑っていった。そんな思いもする。
(小説「モンタルバン」連載を終えて「熊本日々新聞」二〇一三年十一月四日より)
著者
島田真祐
しまだしんすけ
1940年熊本市生まれ。早稲田大学大学院日本文学研究科修了。島田美術館長。著書に「身は修羅の野に」(葦書房)、「二天の影」(講談社)、「幻炎」(弦書房)がある。同市在住。
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