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終わらない被災の時間
原発事故が福島県中通りの親子に与える影響
見えない放射能と情報不安の中で、 幼い子どもを持つ母親のストレスは 行き場のない怒りとなって、ふるえている
本書は、避難区域に隣接する福島県中通り九市町村の二〇〇八年度出生児全員(調査時点では三〜四歳)とその母親(保護者)を対象としたアンケート調査の記録である。
放射能は目に見えない。よほど強烈でただちに症状が出るレベルでない限り、人は放射能に曝されてもその自覚がない。(中略)とりわけ、避難区域外の福島県中通り地域は、「ただちに健康に影響はない」とされ、放射能リスクへの対処が個人の判断に委ねられてきた。その結果、「子どもを外で遊ばせる/遊ばせない」、「地元産食材を食する/食しない」、「避難する/避難しない」などをめぐって、同一地域内でも夫婦、家族、地域社会において亀裂が生じている。
あの事故から四年。子どもの将来は大丈夫なのかという不安、放射能への対処をめぐる夫婦、家族、周囲の人との認識のずれ、食費や除染費用など原発事故への対処により生じた経済的負担感、補償をめぐる不公平感などは今も深刻であり(中略)こうした生活障害に対する補償や支援策がないまま、原発事故が風化し始めていることに母親自身、不安と焦燥を感じている。
その意味で、今なお「終わらない被災の時間」が続いている。(本文より)
東京電力はもちろん、国や行政、専門家には、正確な情報と持続的で的確な精神的、経済的サポートが求められている。
●アンケートの中から――
「モルモットではない私達は決してアンケート結果だけを残すことを望んでいません。声を発信する方法のない私達、子ども達の為に、代わりに社会へ……どうぞよろしくお願い致します」
「原発事故後の子供についての不安なことなどを聞いてくれる所もなかったので、このようなアンケートをとってもらい、思いをぶつけることができて、よかったです」
「子どもの体や心についてのアンケートはこれまでもありましたが、母親の話、気持ちを問われることは少なかったように思います」
「こんなに詳しく原発事故による心理的な影響についてきかれたり、答えたりする機会は一度もありませんでした。調査内容に答えていくうちに心の中の整理ができ、自分がすべきことが見えてきた気がしていました」
*装画 黒田征太郎
1966年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学、修士(社会学)。現在、中京大学現代社会学部教授、「福島子ども健康プロジェクト」代表。
1969年生まれ。熊本大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学、博士(医学)。現在、福岡大学医学部講師、「福島子ども健康プロジェクト」事務局。
1974年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間科学)。現在、中京大学現代社会学部准教授。「福島子ども健康プロジェクト」副代表。
1981年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。現在、桃山学院大学社会学部准教授。「福島子ども健康プロジェクト」統計解析担当。