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石を巡り、石を考える
ヨーロッパ、南米を経て
日本へ回帰した
ひとりの思索者が
石や岩をめぐる物語に
インスパイアされ
その対話を刻む
それにしても、サン=テグジュペリがインカの石壁をひとつの思想として読み取ったのに対し、アルゲーダスがそこにインカの民の悲しみを聴きとるというちがい。サン=テグジュペリにとっては労苦を意味していた石が、アルゲーダスにとっては「煮えたつ血」だったのである。インカ文明は消え去ったが、その末裔であるケチュアの民は生きている、そして叫んでいる。そういうことだった。
アルゲーダスの受けとめ方は内的というより、動的で身体的と言った方がよい。石壁が生きているという確信によって、過去と現在が一つになっているのである。ものの声よりも、労働と宗教に関する観念の声を聞いたサン=テグジュペリと、まさに対照的である。
(本文「アルゲーダスの石読み」より)
著者略歴
1948年鎌倉市生まれ。1975年東京大学文学部倫理学科卒、在学中にフランス政府給費留学生としてフランスに2年滞在。1980年同 大学院比較文学比較文化博士課程単位取得満期退学。静岡大学講師、バルセロナ、リマ、ブエノスアイレス、パリで教えた後、 1995年福岡大学人文学部教授。2016年退職、名誉教授。佐賀県唐津市で「からつ塾」の運営にも当たる。
著書は『精神分析の都』(作品社 )『 福沢諭吉のすゝめ』(新潮選書)『 ユダヤ人の思考法』(ちくま新書)『 正宗白鳥 何云つてやがるんだ』(ミネルヴァ書房 )『 メタファー思考は科学の母』(弦書房)など。
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