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アウシュヴィッツのコーヒー
コーヒーが映す総力戦の世界
ドイツという怪物をコーヒーで読み解く
「アウシュヴィッツなしにはヨーロッパ人がアフリカ人にしたことは、決して理解できなかっただろう」 (アルフレッド・メトロー)
戦争が総力戦の段階に入った歴史的時点で、戦時と平時が明快な区別線をもたなくなった。コーヒーを飲みたいという個人的な欲求が国民的欲求となり、それが国民的欲動となって植民地獲得の動きと化し、ついには世界総力戦に入り込む。そうなれば、一杯のコーヒーさえ飲めれば世界などどうなっても構わぬと考えていた人間が、どのような世界に入り込んで苦しむことになるかの典型例をドイツ史が示していると思われるのである。そして、そのドイツを見続けていると、その回りにアラビアやアフリカの国々が蝟集し、ついにはユーラシア大陸を貫いて極東アジアや日本をコーヒー色に染め上げる筈である。(「はじめに」より)
第一章 アラベスクな風景
スーフィー/マッカのザムザムの泉/マッカの大虐殺/ザンジの乱 他
第二章 医学と音楽と文学の国
バッハの「コーヒー・カンタータ」/コーヒー占い/若きヴェルテルの悩みから老人の幸福へ 他
第三章 土地なき民
プロイセンのメランコリックなコーヒー政策/ドイツのコーヒー中毒 他
第四章 黒い原点
コーヒー・プランテーション/カーフィル化/人種差別の発生/マジマジ反乱/偉大なる戦争 他
第五章 総力戦
ルーデンドルフの『総力戦』/総力戦の原型としての日露戦争/科学者の戦争/コーヒーの途絶 他
第六章 二十世紀の三十年戦争
総力戦は続く/煖炉の語らい/ユダヤ人の苦難/ドイツのブラジル移民計画/不気味な毒虫 他
第七章 アウシュヴィッツのコーヒー
一九四一年/真珠湾/「回教徒」/チクロンB/総力戦と代用コーヒー/代用コーヒーJ 他
第八章 極東の総力戦と一杯のコーヒー
三国同盟/岸信介/大杉栄と現代の奴隷制/カーフィル化する世界/コーヒーの理念 他
1946年福島県生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了。新潟大学教養部助教授を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授。現在、東京大学名誉教授。専門は、文化学、ドイツ・ヨーロッパ文化論、言語情報文化論。
著書に『コーヒーが廻り 世界史が廻る――近代市民社会の黒い血液』(中公新書、1992)、『パンとワインを巡り神話が巡る――古代地中海文化の血と肉』(中公新書、1995)、『乾いた樹の言の葉――『シュレーバー回想録』の言語態』(鳥影社、1998)、『榎本武揚から世界史が見える』(PHP新書、2005)、『『苦海浄土』論』(藤原書店、2014)、編書に『バッハオーフェン論集成』(世界書院、1992)、翻訳にイバン・イリイチ著/デイヴィッド・ケイリー編『生きる希望――イバン・イリイチの遺言』(藤原書店、2006)等。他にバッハオーフェン及び母権論思想に関するドイツ語論文多数。