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[完全版]石牟礼道子全詩集
詩を書いているなどといえばなにやら気恥かしい。心の生理が露わになるからだろうか。散文ではそうも思わないのが不思議である。
書いては隠し、隠しして来たような気がする。ようなという言い方には何も彼も曖昧にしたい気分がこめられている。やりそこなってばかり生きてきたからと思う。
(「あとがき」より)
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時空を超え、生類との境界(あわい)を超え、石牟礼道子の吐息が聴こえる[完全版]全詩集。
『はにかみの国 石牟礼道子全詩集』(石風社)を出版したのは、二〇〇二年八月である。この『全詩集』は、二〇〇三年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞し、第三刷まで刊行した。三十篇の作品を収載した一七〇頁の全詩集だったが、その後石牟礼氏が新しい作品を発表するとともに、未発表の初期作品も続々と見いだされた。二〇一八年二月十日に石牟礼氏が亡くなった後も、「石牟礼道子資料保存会」(二〇一四年十二月発足)のたゆまぬ努力によって石牟礼氏の遺稿「ノート」が精査され、新たな作品が発掘された。それらは、熊本市で発行されている雑誌「道標」(人間学研究会)や「アルテリ」(アルテリ編集室)誌上に発表されてきた。今回の『〔完全版〕石牟礼道子全詩集』は、『はにかみの国石牟礼道子全詩集』をはじめ、『石牟礼道子全集・不知火 第一巻・第十五巻』(藤原書店)や前記の雑誌に掲載された全ての作品を纏めたもので、百十七篇を収載する四四四頁の大冊となった。
作品は、ほぼ制作年代順に並べたが、本全集には、もっとも新しい収載年度のものを収録した。作品によっては、初出のものに著者が手を加えたり、ルビが付されたものもある。「初出一覧」には、その後の収載書籍の変遷も分かるようにしている。
初出一覧
*初出以降の収載書籍については、以下のように記号を付した。
「はにかみの国 石牟礼道子全詩集」(石風社 二〇〇二年)には*
「石牟礼道子全集・不知火 第一巻 初期作品集」(藤原書店 二〇〇四年)には○
「石牟礼道子全集・不知火 第十五巻 「全詩歌句集」ほか」(藤原書店 二〇一二年)には◎
一九四〇〜五〇年代
・朝 「道標」二〇〇二年春二号 一九四四年田浦小学校校庭にて ◯
・生命 「アルテリ」四号二〇一七年八月十五日発行 ノート「石牟礼道子歌集 昭和二七〜」より
・夜の話 「アルテリ」四号二〇一七年八月十五日発行 ノート「石牟礼道子歌集 昭和二七〜」より
・古い抒情 「アルテリ」四号二〇一七年八月十五日発行 ノート「石牟礼道子歌集 昭和二七〜」より
・虹 「道標」二〇〇二年春二号 一九五五年九月 ◯
・無題 「アルテリ」四号二〇一七年八月十五日発行 「詩稿」昭和三〇年頃のノートより(ひさしかぶり)
・点滅 水俣詩話会『直線』一号 一九五六年四月刊 * ◯
・とのさまがえる 「道標」二〇〇二年春二号 一九五七年頃 ◯
・埴生の宿 「道標」二〇〇二年春二号 一九五八年六月二十七日 ◯
・いっぽん橋 「道標」二〇〇二年春二号 年代不詳(初期詩篇「埴生の宿」の後に掲載) ◯
・烏瓜 「道標」二〇〇一年秋一号 一九五八年九月十三日 ◯
・馬酔木の鈴 (原題「妣の国」)尚和会文芸部『葦火』一〇集 一九五八年一〇月刊 *◯
・川祭り 水俣市教職員同人集『寄せ鍋』一一号 一九五八年一一月 *◯
一九六〇年代
・卑弥呼 「道標」二〇〇二年秋三号 おそらく一九六〇年代初頭 ◯
・無題 「アルテリ」五号二〇一八年二月二十二日発行 一九六〇年(あなたの花を花ひらかせ)
・無題 一九六〇〜六二年に書かれたノートより 一九六〇年(みるみる溶けてゆくのよ)
・無題 一九六〇〜六二年に書かれたノートより 一九六〇年(流れる 流れる)
・野鍛冶の女房 一九六〇〜六二年に書かれたノートより 一九六〇年六月十五日 ◯
・フランソワ・ビヨンの雪 「現代思想」五月臨時増刊号 一九六一年
・娼婦 『サークル村』一九六一年五月号 *◯
・連帯 「道標」二〇〇二年秋三号 一九六二年十二月 ◯
・集会 「道標」二〇〇二年秋三号 一九六三年五月 ◯
・胎教 「道標」二〇〇二年秋三号 一九六三年六月 ◯
・出生 「道標」二〇〇二年秋三号 胎教(一九六三年六月)と同じ頃の作 ◯
・午睡 水俣市職員労組青年部『もえろ』三号 一九六三年刊 *◯
・とんぼ 「道標」二〇〇一年秋一号 年代不詳(旧作三篇「墓の中でうたう歌」の前に掲載) ◯
・墓の中でうたう歌 「道標」二〇〇一年秋一号 一九六五年一月 ◯
・背中のうた 「道標」二〇〇三年春四号 おそらく昭和三〇年代から昭和四〇年代初頭 ◯
・隠亡 「道標」二〇〇三年春四号 おそらく昭和三〇年代から昭和四〇年代初頭 ◯
・便り 「道標」二〇〇三年春四号 おそらく昭和三〇年代から昭和四〇年代初頭 ◯
・糸繰りうた 「道標」二〇〇三年春四号 おそらく昭和三〇年代から昭和四〇年代初頭 ◯
・瓔珞 「道標」二〇〇三年春四号 おそらく昭和三〇年代から昭和四〇年代初頭 ◯
・木樵り 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(初期詩篇「水影」「受胎」の前に掲載) ◯
・水影 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(初期詩篇「受胎」の前に掲載) ◯
・受胎 「道標」二〇〇三年秋五号 一九六六年一月六日 ◯
・花柴賣りのおつやしゃん 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(初期詩篇「受胎」の後に掲載) ◯
・虹 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(初期詩篇「受胎」の後に続く 以下同) ◯
・朱い草履 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・風 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・七草 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・花をあなたに 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・花 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・なすびをたべているおかあさん 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・野鍛冶の女房 「道標」二〇〇三年秋五号 年代不詳(同右) ◯
・無題 「アルテリ」六号二〇一八年八月十五日発行 一九六九年(今は昔、たたなわる山ひだ)
一九七〇年代
・生存 「アルテリ」六号二〇一八年八月十五日発行 一九七〇年
・死民たちの春 『朝日ジャーナル』 一九七一年一月一五日号 *◎
・無題 「アルテリ」五号二〇一八年二月二十二日発行 一九七一年(いとおしきかな)
・薫香 (原題「風の祭」)『婦人文芸』三九号 一九七二年四月刊 *◎
・夕焼 「アルテリ」五号二〇一八年二月二十二日発行 一九七二年
・無題 「アルテリ」五号二〇一八年二月二十二日発行 一九七二年(壺は)
・幻のえにし 『天の魚 続・苦界浄土』講談社文庫を改稿 一九七四年
・花がひらく 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・春 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・出魂 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・彼岸花 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・燈籠 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・少年 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・浜の甲羅 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・月夜 秀島由紀男版画集『彼岸花』 南天子画廊 一九七四年四月刊 *◎
・はにかみの国 『終末から』終刊号 一九七四年一〇月刊 *◎
・よみがえる死 「アルテリ」七月号二〇一九年二月二十二日発行 一九七五年
・日常の中の死期 「アルテリ」七月号二〇一九年二月二十二日発行 一九七五年
・えんま大王さまにある死人のいうこと 「アルテリ」七月号二〇一九年二月二十二日発行 一九七五年
・尺取り虫 (原題「不知火海」)未発表 昭和五〇年代の作 *◎
・乞食 未発表 昭和五〇年代の作 *◎
・涅槃(幽玄) 未発表 昭和五〇年代の作 *◎ ・「涅槃」は「幽玄」として『石牟礼道子全集 不知火 第一五巻』(藤原書店 二〇一二年三月刊)に掲載
・未明 未発表 昭和五〇年代の作 *◎
・水鏡 未発表 昭和五〇年代の作 *◎
・海底の修羅 「アルテリ」四号二〇一七年八月十五日発行 昭和五〇年代
・鬼道への径 (原題「ピケット小屋の夜更り」)未発表 昭和五〇年代の作 *◎
・緑亜紀の蝶 (原題「およぐ木 赤い花に逢う」)西浦克己写真集『与那国』葦書房 一九七九年八月刊 *
一九八〇年代
季節はわたし 未発表 八〇年代後半以降
・無題 「アルテリ」七月号二〇一九年二月二十二日発行 一九八〇年
・永遠 「アルテリ」七月号二〇一九年二月二十二日発行 一九八〇年十一月十三日
・樹への旅 未発表 一九八〇年十二月
・無題 未発表 一九八一年
・茜空 『日本談義』 一九八一年一月号 *◎
・入魂 『朝日ジャーナル』一九八一年九月二五日号 *◎
・原初よりことば知らざりき 『水俣の図物語通信』一号 一九八二年二月刊 *◎
・年月 ノート番号「に71」 一九八二年〜 一九八三年二月二日
・再生 ノート番号「に71」 一九八二年〜 一九八三年二月三日未明
・神話 未発表 「詩稿」 一九八四年五月三十一日
・無題 ノート番号「に80」 一九八六年 一九八六年四月三日夜(たわやすく言に)
・蓮沼 『季刊・花神』六号 一九八八年一〇月刊 *◎
・鳥 未発表 一九八九年九月
一九九〇年代
・魚とりパントマイム (原題「魚とり神話」) 日本民話の会編『椿の海』童心社 一九九二年一一月刊 *◎
・エントロピレーヌ神殿へ (原題「ある日のこと」) 『アサヒグラフ』一九九四年七月一日号 *◎
・満ち潮 伊藤比呂美・上野千鶴子『のろとさにわ』 の「解説のかわりの献詩」 平凡社 一九九五年十一月刊 *◎
二〇〇〇年代
・精霊たちの浜辺 (原題「精霊たちの子らに囲まれて――あとがきにかえて」)『石牟礼道子詩文コレクション 三 渚』藤原書店 二〇〇九年九月 ◎
・わたくしさまのしゃれこうべ 「現代詩手帖」二〇一一年一月号 ◎
・黒髪 『母』共著・米良美一 藤原書店 二〇一一年六月 ◎
・花を奉る 「環」46号 藤原書店 二〇一一年七月 ◎
・火種 「現代詩手帖」二〇一一年八月号 ◎
・無題 「アルテリ」八月号二〇一九年八月十五日発行 二〇一二年四月三十一日(ぽんぽんしゃらどの)
・さびしがりやの怨霊たち 「現代詩手帖」二〇一二年四月号 「祖さまの草の邑」として連載
・おしゃらさま 「アルテリ」八月号二〇一九年八月十五日発行 二〇一二年
・おしゃらさま2 「アルテリ」八月号二〇一九年八月十五日発行 二〇一二年
・おしゃら恋唄 「現代詩手帖」二〇一二年六月号 「祖さまの草の邑」として連載
・龍が お月さまに齧りつく 「現代詩手帖」二〇一二年七月号 「祖さまの草の邑」として連載
・天の鳥舟 「現代詩手帖」二〇一二年八月号 「祖さまの草の邑」として連載
・南瓜どのへ 「現代詩手帖」二〇一二年九月号 「祖さまの草の邑」として連載
・於古世野魚万呂 「現代詩手帖」二〇一二年十月号 「祖さまの草の邑」として連載
・夢や あわれ 「現代詩手帖」二〇一三年一月号 「祖さまの草の邑」として連載
・蟇の蟇左ェ門(一) 「現代詩手帖」二〇一三年五月号 「祖さまの草の邑」として連載
・蟇の蟇左ェ門(二) 「現代詩手帖」二〇一三年七月号 「祖さまの草の邑」として連載
・蟇の蟇左ェ門(三) 「現代詩手帖」二〇一三年八月号 「祖さまの草の邑」として連載
・創世記 「現代詩手帖」二〇一三年九月号 「祖さまの草の邑」として連載
・檻の中の哲学 「現代詩手帖」二〇一四年一月号 「祖さまの草の邑」として連載
・無題 「アルテリ」八月号二〇一九年八月十五日発行 二〇一四年(わたしたちの世紀がほろび)
・無題 未発表 二〇一五年(わたしは木の葉の一葉にすぎない)
・サルトリイバラ 未発表 二〇一五年
・大雨乞と沖の宮 朝日新聞西部本社版 二〇一六年一月二十六日掲載
・天の田植え 朝日新聞西部本社版 二〇一七年二月二十一日掲載
・虹 未発表 二〇一六年
・明け方の夢 朝日新聞全国版 二〇一八年一月三十一日掲載
・なごりが原 朝日新聞全国版 二〇一七年十月二十六日掲載
1927(昭和2)年3月11日、熊本県天草郡宮河内(現天草市河浦町宮野河内)に生まれ、生後3ヶ月で水俣に移る。
1943年水俣町立実務学校卒業。2学期より葦北郡田浦小学校に勤務。1947年結婚。1958年谷川雁主宰「サークル村」結成に参加。1968年水俣病対策市民会議を結成。
1969年『苦海浄土――わが水俣病』(講談社)刊行。大宅壮一賞を辞退。1973年マグサイサイ賞(フィリピン)を受賞。1993年『十六夜橋』(径書房)で紫式部賞を受賞。2001年朝日賞を受賞。2003年『はにかみの国石牟礼道子全詩集』(石風社)で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2004年『石牟礼道子全集・不知火 全17巻・別巻1』(藤原書店)が刊行開始、2014年完結。2014年、詩集『祖さまの草の邑』(思潮社)で花椿賞を受賞。
著書に、『流民の都』(大和書房)、『椿の海の記』(朝日新聞社)、『西南役伝説』(朝日新聞社)、『あやとりの記』(福音館書店)、『おえん遊行』(筑摩書房)、『天湖』(毎日新聞社)、『春の城』(藤原書店)、『石牟礼道子全句集泣きなが原』(藤原書店)、『石牟礼道子全歌集』(弦書房)他
2018年2月10日、死去。享年90歳。