『女の絶望』伊藤比呂美(光文社)を読む

福元満治
2012/05/04

 

『女の絶望』というタイトルだが、中高年の男こそ読むべき本である。なぜなら絶望の原因はおおむね男社会の身勝手、理不尽さだからだ。もちろん女性達もはじめから絶望していたわけではない。男と女が出会い、結婚をし子をなし、悪戦苦闘して子どもを育て上げる。穏やかな老後を送れればよいが、二人だけになったとき、首をもたげてくるのは、死ぬまで男どもの理不尽を受け入れざるを得ないという現実だ。その絶望や忍耐に、男は気づかない。

 詩人であり小説家でもある著者の伊藤比呂美氏は。九州のブロック紙で「身の上相談」コーナーを持っている。本書は、その欄での応答に素材を得た小説だ。悩み事に寄席芸人風に答えるのは、比呂美さんならぬ「伊藤しろみ」さん。その身も蓋もない語りには体験から汲み出した熱い情がある。

「ふつうのせつくす」に始まり「さいごはかいご」に終わる十二章を貫くのは、「家族」のそれも「性」が根底にある問題だ。しろみさんは、中高年女性の悩みであるセックスレス、夫の不能、不倫、性欲、嫉妬、更年期の問題まで、あけすけに真摯に答える。尿もれやお湯もれなんてことも、自分の体験に照らして細かく語る。男の読者としては、目から鱗の初耳である。

 セックスというのは親密な同士でするものだが、二人であれこれ語り合うことがしにくい事柄。しろみさんも、「夫婦の問題は、セックスだろうがカレーの具だろうが、先ず話し合うべし」を基本としながら、カレーはいいとして「セックスについては、よっぽどの覚悟がないと話し合えません」という。

 話し合うべきだが、話せない。この辺りの深くて暗い溝をどう越えるか。しろみさんも、若いときは離婚だ不倫だと大変だったが、「化粧すりゃ妖怪、しなけりゃばばあ」になると、「あたしはあたし、人(しと)は人」の境地に至ると達観する。

 しかし、枯れたつもりがまだ生木のオヤジに、その境地を望むのは難しい。であれば本書を読んで、いくらかでも「女の絶望」を理解するしか、男達の延命策はない。

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