烏と生きる

重松博昭
2014/06/03

 このさいなので,鳥インフルエンザ、そして養鶏について、もう少し突っ込んで考えてみたい。
 本当に残念だ。平飼い・放し飼い養鶏が実にしづらくなった。かつてはどこにでもあった庭先養鶏が、ほとんど見られなくなった。
 なぜ鳥インフルエンザがこうまで恐れられるかといえば、このウイルスが変異して、人から人へと感染するようになれば、人は全く免疫を持っていないため、世界的大流行になるかもしれないからだ。
 かつて鳥インフルエンザは人には感染しないと考えられていた。1997年、香港で人への致死的感染が突然起こり、世界中を驚かせた。このウイルスは人の鼻や喉の粘膜に取り付くことができず、肺の奥の細胞にしか付着できない。病気の鶏等の感染源によほど密に接触して、大量のウイルスを肺の奥まで吸引しなければ感染しない。
 鶏だってそう簡単には感染・発病はしない。そもそもウイルスは細菌のように独立して空気中や地中等に存在しているのではなく、動物に感染しなければ増殖できない。体の外では、数時間から数日以内に死に絶えてしまう。また動物が死ねば、ウイルスも体内で存続できない。
 鳥インフルエンザは、カモなどの水鳥の腸管で増殖し平和共存している。病気を起こすことはまずない。多くはその水鳥から、しばしばアヒルを経て鶏に感染すると考えられている。ふつう鶏では抗体ができてウイルスは排除されるが、大規模な養鶏場では、ウイルスが鶏に広がる間に変異し、抗体に抵抗性のウイルスが出現し、次々と鶏が犠牲になる(山内一也著「地球村で共存するウイルスと人類」参照)。
 一般常識的に考えるなら、鶏の羽数が少ないほど、密度が薄いほど、そして鶏が健康で抵抗力があるほど、鳥インフルエンザにはかかりにくい。事実も、少なくとも近年のここ日本においては、それを示している。ウイルスの運び屋であるアヒルと同居させていた一例を除いて、私の知っている限りでは、小規模の平飼い・放し飼い養鶏場ではなく、すべてブロイラー等の大規模養鶏場で発生している。
 当然、少々の接触はあっても、少なくとも日本の平飼い・放し飼い養鶏場で、人が鳥インフルエンザにかかることも、ウイルスが変異して人から人に感染することも、可能性はきわめて低い。
 その大前提になるのが、鶏の健康だ。
 もう30年以上も前のことだ。鶏を200羽に増やすための資金20万円を、世帯更生貸付資金で借りるためには、保健所の認可が必要だった。
 職員曰く、鶏舎の床は土ではなくコンクリートでなければ。地下水の汚染、鶏の衛生・健康の問題がありますから。
 アホらしくなって、もう結構と捨て台詞を残して出てきた。土の上だからこそ、微生物等がいるからこそ、鶏糞は発酵し、土に返ることができる。その土と草等々が混じったふかふかの床の上を、鶏達はのびのびと駆け回ることができるし、羽を広げ砂浴びすることもできる。コンクリートの上に鶏糞をおいてみるがいい。まさにフンプンタル悪臭がいつまでも続く。
 今、保健所の方々からは、時折親切な助言をいただいているので、これ以上批判は控えたいが、ことウイルス、そして養鶏・畜産の根本的問題に関しては、今も溝は埋まらない。
 私は思う。この鳥インフルエンザは私たちに重大な警告を発している。近い将来の地球全体の食糧危機・水不足が予測され、現在も多くの人々が飢えに苦しんでいる中、膨大な輸入穀物を消費する超大規模畜産が許されるのだろうか。飼育・管理されている動物たちが余りにも多すぎるのではないか。そんなに大量の畜産物を食べ続けなければならないのか。
 規模が小さければ小さいほど、穀物はいらない。人間の食べ物の残り、米ぬか、おから・・・で十分だ。時折、庭先にも放せる。草や虫を食べてくれる。光は降り注ぎ、風は爽やか。鶏も卵も最高に健康だ。素人が気楽に5、6羽飼えるようになればいいのだが。
 私達は、動物たちとの、そしてウイルスとの付き合い方を問い直さなければ。大地に根付いた畜産を、農を、暮らしを取り戻さなければ。

 今初夏も、ビワや桑、とりわけグミの実をめぐる、烏たちとの熾烈なお付き合いが続いている。連日、明るくなるとすぐに実をちぎり始める。木々の深い緑をバックに、抜けるような紅が光の雫のように枝という枝に下がっている。袋にたまると持ち帰る。つぶして広口ビンに入れる。砂糖を適宜。2、3日でグミワインになる。急いでとってかえすと、数羽の烏たちが大きく羽を上下させ重い羽音を唸らせて飛び去った。その闇の黒と実の紅のコントラストが鮮やかだ。
 気温の変化についていけないのだろう。今年も風邪気味で、グミの実とグミワイン三昧が今年もその薬だ。

 それにしても砂漠のような暑さ! 老兵(鶏)さんたちは黙々と耐えていますが、産卵はがっくりと落ちるでしょう。

             2014 5・31

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