私達はあまりにも食べ物が作られる現場、諸々の植物たち、動物たちが生き、死ぬ場から離れすぎているのではないか。卵は一個の生命なのだ。肉だって。生きている牛の、一頭一頭を殺さなければならない。鶏だって。自身が食べる生き物を自身で殺すなら、「人を殺してみたい」などとはとても思えないだろう。
肉1kgを得るために必要な穀物はその十数倍から数倍。もし世界が欧米並みの食生活になったら、食糧は完全に不足する。今だって多くの人々が飢えている。そして日本は飼料穀物の輸入大国だ。しかも毎日毎日膨大な食べ物を廃棄している。
例えばオカラも今ではりっぱな産業廃棄物だ。一体どれだけの量が焼却処分されていることか。一方、米ぬかの多くは肥料として田畑に投じられているが、オカラと混ぜ、光と空気から遮断して嫌気性発酵させると良質の飼料になる。これに耳パンや学校給食等の残りや魚のあら……に青菜、腐葉土、カキガラを加えれば、ほぼ完全栄養食に。しかもほとんどタダ。でも実行している所はごくごくわずか。
何千何万何十万羽と飼っている一般養鶏場では、労力からみても到底無理。せいぜい数百羽の小規模平飼い・放し飼いでないと。十羽程度の庭先養鶏が理想だろう。都会のビルの屋上もおもしろい。残飯がいくらでも手に入る。雨水も。ついでに畑も作る。池も。少しは都会の夏も涼しくなるだろう。
だが残念ながら平飼いは激減した。鳥インフルエンザ、そのウイルスから完全隔離しろと保健所の方々はのたまう。土に放し、野の青草や山の腐葉土を食べさせる平飼いには不可能だ。ところが少なくともこの日本では、完全隔離しているはずの大量飼育の「密室」で、鳥インフルエンザが続発している。(唯一平飼いで発生した大分県の場合は、ウイルスの運び屋であるアヒルを川から連れてきて鶏たちと同居させていた)
やっぱり健康な鶏のほうが病気に強いんじゃない。隔離も過ぎると弱くなるんじゃない。もちろん平飼い・放し飼いが絶対安全という訳ではない。できる限りの防御策はとらねば。水鳥・野鳥との接触は避けねばならないし、日当たり、飼育密度、湿度……そこのところを総合的に研究するのが真の科学ではないんですかねえ。研究者の務めではないんですかねえ。
さて、デンマークの若者Mr.ヤイスは次第に雑草園の暮らしになじんできた。食事にも。例えば朝は玄米飯、野菜たっぷりと海藻、キノコ入りの呉汁、ほうれん草の卵とじ。昼はご飯より野菜が多いくらいのキムチチャーハン大盛りに目玉焼き二つに焼きのり。夕はオムレツ(彼には卵4個)。ま、これは連日の料理等に妻が疲れ、私が代役した最も卵が多い例。今が卵が旬でもあるし。ドブロクもよく飲んだ。風呂も好きだった。だが釡が小さい。というより彼が大きすぎるのだが。
今年二度目の一面の白い朝、ハッサンが粉雪を蹴散らし山を駆け上がっていった。純白に、いくつもの椿の紅が淡い光を放っていた。ヤイスも元気いっぱいだった。幅10㎝、長さ1mの板を唐鍬の先にくくりつけ、てきぱきと雪かき器を急造、一気にきれいさっぱり道の除雪をしてくれた。彼はことのほか道具に興味があった。鍬、スコップ、つるはし、フォーク、ぼんごし、金槌……あるものをフルに(剪定した庭木も)使い、様々に工夫、くさびも木や釘等で調達して、丈夫で使いやすい道具を再生させた。スコップの柄が長すぎると言うと、雑草園にやって来るであろう長身のウーファーさんのためだそうな。
繊細で相手のことに気を配ってくれた。私の短気にも。2月3日、この日は彼の休養日、三人とハッサンと添田町の自然食バイキングに昼食に出かけた。日差しがやんわりと暖か、田んぼ一面の薄い緑が初々しい。なんと店はめったにない休み。仕方がないのでスーパーで握り寿司を。ところがない。そうか2月3日か。どうして誰もかれもがなんとか巻きを食べなくちゃいけないの。別のスーパーへ。二人に任せ、ハッサンと待つ。すきっ腹にイライラが募ってくる。なんとここにもない。大きな袋を抱えたヤイスの控えめな笑顔がなけりゃ私の怒りが爆発したろう。
彼にはかえってよかったかも。トンカツ巻きに牛肉マヨネーズ巻き、たっぷりの飯にちょっぴりのネギトロ巻き等々、三人前以上平らげてくれた。夕方、熊ヶ畑の湯に一人で。以後二日に一度は通い、常連の方々と親しくなったとか。
彼と妻と、食、環境、原発、世界情勢……とよく話した。難民問題だけはちょっと険悪に。やはり現実に受け入れる側からすれば「招かれざる客」ですよねえ。あっさり言ってしまえばヨーロッパの世界侵略がその元凶なんですけど。
ここ何百年の、力・マネー・「進歩」至上主義は、今明らかに末期的症状を呈している。そして日本はアメリカに追随し、その破滅への暴走を加速させようとしている。
もうすこし足元を見据えたら。生命の源である山や野や田畑、川や海を。ぼやぼやしているうちに大地が破壊されてしまう。地下水が毒されてしまう。鹿や猪等々も、山の緑を食いつぶそうかという凄まじい勢いだ。人間は生命からの逃走をいつまで続けるんでしょうかねえ。今回も尻切れトンボでした。次回に
2017 3.16