雪々雨々

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雪々雨々
zeikomi
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 1月23日(土)、寒空だが雪なし。やっぱり。近頃の天気予報大げさなんだ。10年は愚か1年に一度の雪だってどうだか。
 夜になって急速に冷えた。夜半、トイレに起きガラス戸越しに外を見ると、闇に幅30㎝近くの白い帯が浮き上がっていた。無風、雪が密に途切れなく。まるで白い雨のように。
 翌朝、ハッサン雪の海に潜る、白い海を泳ぐ、さらさらとどこまでも美しい白、どこまでも広がる、どこまでも深まる白……このどこまでも透明な白に、世界全体が呑み込まれそう。
 屋根に30㎝は積っている。このまま降り続いたら…大空を埋め尽くす白い点を見つめながら、屋根が押し潰されないかと危惧した。こんなことは10年ぶりどころか生まれて初めてだった。
 その夜の寒さも初めてだったように思う。とっくりセーターを着て毛糸の帽子を被って布団に潜り込んでも、ぞくぞくと底冷えが背中に忍び込んでくる。カイロのおかげでなんとか温もった。3回起きだして外を見たが、さほど積雪は増えなかった。
 どうやら雪が解けた3日後の27日の昼すぎ、Mr.アントワン(28歳、フランス)を迎えに筑前大分駅へ。時折穏やかなうす日。長身で肩幅の広いけっこう2枚目、メガネをかけるとなぜかアメリカ喜劇映画にでてくる大学の先生風。なにしろ賑やか、いつも動いている。まずは薪を挽き、風呂を沸かしてもらう。せかせかと力の入れ過ぎでさっそく鋸の刃が駄目に。
 風呂は喜んで入った。食事も何かと、特に飯に醤油をかける以外は問題なし。雨模様の灰色の日々、薪の用意、銀杏の皮むき、ハッサンの散歩……とせっせせっせと仕事に励んでくれた。病み上がりの妻は洗濯物を乾かすのに苦労した。彼がほとんど着換えを持ってきていないし、丸太小屋にある共有の衣類を使おうとしない。
 休日にした30日(土)だけは晴れ。3人と1匹筑前町に食事に出かけた。帰り道、嘉穂町の河原で散歩した。微風の程良い肌寒さ。生気も水気も抜けきった2メートル近い葦の茂みにハッサンは駆け込み、川面の光のさざ波に浮かぶ百羽程の渡り鳥めがけて、スーとまるでラッコのように泳いだ。
 その散歩の時も行きも帰りも彼は車中で熟睡。食事と散歩の後の買い物の時だけはパッチリ。昼食のご飯は半分以上残したくせにチョコレートを買い食い。煙草、ポカリスエット、トマト・イチゴ(もちろん暖房付きハウス産)も。
 31日朝方雨、後曇り。午前中、防護柵の網はりの後、大きな深いナンテンの根を掘り返してもらう。はずだったが、スコップを差し出す妻に、柄の壊れたツルハシじゃないとと彼が譲らず。昼食後すぐ私が山から切ってきた木で柄をつけた。
 1日(月)朝食は私が係。玄米飯と呉汁(一晩水に漬けた大豆をミキサーで潰し火を入れ味噌を溶く。野菜、わかめ、木の子等加える)、キムチ、ホウレン草のお浸し。彼は飯少し、汁半分、キムチやお浸しには手をつけず、立ち上がって、「卵食べていいですか」
「どうぞ」と言うと、冷蔵庫からチーズも取りだし料理を始めた。だんだんムカついてきて、食後、妻に通訳を頼み、きびしく言った。
「日本では、まず出されたものをきちんと食べるのが最低限の礼儀だ。こちらは、相手のことや栄養のバランスなどを考えて、うちでできた季節の野菜を使って心を込めてつくっているのだから」
 彼は子供のような表情になって素直にあやまった。いたって気のいい青年ではあった。案外、気が合った。わかりにくい英語だったが、こちらが了解するまで、スマートホンで訳した日本語をまじえて説明してくれた。私も辞書片手に会話が成り立つよう努めた。私のブロークン英語でも、ゼロに近いヒヤリング感度でも、あわてず、あきらめなければ何とかなるんだよね。
 これなら予定の3週間は持つかな、家族同然にわかりあえるかもと期待し始めた矢先の3日夜、旅行がしたいと言い出し、5日朝、発って行った。拍子抜け、ほっともする。だがやはり心残りだった。
 彼が来た翌日、彼と妻と話していた時、原発が話題になった。
「フランスはまったく問題ないよ。廃棄物だって捨てるところはいくらでもあるし……」
「ノーノー」と妻は強く言って、一体どこに捨てるのかと聞くと、タヒチ等々の旧植民地だとか。後から聞いて私は唖然とした。原発も廃棄ももちろんだが、植民地支配を悔悟さえしていないとしたら最悪だ。
 肝心な所で理解し合えなかった。食も、農も……。もう少し英語ができたら。自分が最も大切だと思うことくらいは伝えたいし、彼の話もじっくりと聞きたかった。何か事情があるのかもしれない。
 もっとも言葉が通じてもまるで通じないこともざらだよね。たとえば日本人同士。欧米人だけではなく、日本人も(もちろん私も)余りにも歴史を、現実を直視していないよね。欧米が、そして日本が推し進めてきた、巨大科学技術を擁するカネ至上教こそ、諸悪の根源でないの。

 寒かったり、暑かったり、雪ぱらつき、雨じっとり、野菜さっぱり、テン連日金網破り鶏食い、有難い、ただ生きること……
 テン襲来 春一番 梅吹雪 種まき間近
                      2016 2・17